ヒップホップ・ドリーム (河出文庫)

ヒップホップ・ドリーム (河出文庫) の詳細

薄っぺらなモラル論をふりかざすような文系人間には逆立ちしても書けない、究極「人間がどう生きるべきか」というところまで掘るような深い洞察に溢れている。現代社会では、生きるか死ぬかの根源的な緊張感は様々な欺瞞に覆い隠されている。そういう表皮を剥がして真実に辿り着くには、使い古されたお行儀の良い道徳はまるで役に立たない。ストリートのリアルを生きている人間が、我々のようなヌルめの便利社会の人間のところまで降りてきて語ってくれる機会は少ない。そういう意味で、本書は貴重な接点だし、我々がヒップホップを聴く意味もそれだろう。文体は独特で、ぶっきらぼうで静かな迫力があり、淡々と語られる。その中に唯一無二のユーモアセンスが散りばめられている。通り一遍の大学教育を受けた人間の書く文章とは全く違うベクトルで高い知性を感じさせてくれる、新鮮な読書体験がある。文庫版はフリースタイルダンジョン以降の出来事もしっかり書かれており、既読の人間が読んでも十分に元が取れる内容。